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精神疾患をVRで治療する


(こちらは昨年にnoteで公開した記事を一部修正して公開しています)

被害妄想という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

自分が誰かに攻撃されるとか、狙われているなどと思い込むものです。

この被害妄想は、ちまたでも使われる言葉だと思います。

誰でも状況次第で、ふと、そんな気分になることもあるでしょう。

人間が疑心暗鬼にかられることは、めずらしくありません。

ただ、精神科で「妄想」という言葉を使う場合は、かなり程度の強いものです。

実際にはないことなのに、完全にあることだと信じこんでいる、確信している場合をいいます。

例えば、電車に乗ったら、同じ車両に乗り合わせた人たち全員が共謀していて、自分を殺そうとしているなどと思い込んでしまうような。

これは現実的にはありえませんが、そうだと確信してしまうのが典型的な被害妄想です。

ちまたで使われる意味合いよりも、もっと病的だということが分かってもらえたでしょうか?

たとえ、「あの人は自分に対して何か良からぬことをしているのではないか」などと証拠もなく疑ってしまうような場合でも、半信半疑だったり、自分で考えすぎだなと思ったりしているような段階、確信とまではいかない段階では被害妄想とは言わないです。

これが、被害妄想という言葉の定義ですね。

さて、そんな被害妄想ですが、このせいで、誰も信用できなくなり、誰にも会いたくないと家の中に引きこもったりなどと、人間を遠ざけてしまう人が多くいます。

本人はただ自分の安全を確保しようとしているだけなんですが、そうやって人を遠ざける行動パターンにはまってしまうと、人と会う恐怖を克服することはできません。

ただ、被害妄想のある方に、人のいるところに行こうと誘っても、怖いからといって拒否するのが普通です。

そこで、現実に人と会うのが難しくても、バーチャルリアリティ(VR)のテクノロジーを使って人に会う練習をすればいいんじゃないかという発想が生まれたようです。

今回は、バーチャルリアリティが精神科の治療に使われたという論文をご紹介します。

バーチャルリアリティって、見たことあるでしょうか?

大きなゴーグルをかけると、そのゴーグルの内側に映像や音声が流れます。

視界の全てを使って映像が流れるので、強い臨場感を味わうことができます。

バーチャルリアリティは、もはやめずらしいものではありません。

今なら、スマホを持っていれば、ハコスコとか使って誰でも手軽に楽しめます。

今回ご紹介するものは、イギリスのオックスフォード大学の方々が中心となって作った、バーチャルリアリティによる被害妄想の治療プログラムです。

作られたプログラムは、暴露療法と認知行動療法の2種類。

暴露療法とは、自分が怖いと思う状況に積極的にあえて飛び込み、恐怖体験に暴露されるというやり方。

認知行動療法は、物事の捉え方、考え方を修正して、嫌な感情を引き起こさないようにするという治療です。

この2つのプログラムは両方ともバーチャルリアリティを使って作られました。

そして、この効果を比較する研究に、被害妄想に苦しむ30人が参加しました。

参加者は、どちらか一つのプログラムを受けてもらいます。

どちらのプログラムを受けるのかは、誰かが決めるのではなく、くじ引きみたいな方法でランダムに選ばれました。

このランダムに選ぶという方法は、研究ではよく使われます。誰かが選ぶと、えこひいきしたりなど、ズルができてしまいます。

そういう不正を防ぐためにランダムに選ぶわけです。

さて、結果はというと、認知行動療法の方が、暴露療法よりも被害妄想を改善できたという結果でした。

今後は、バーチャルリアリティを使った認知行動療法が進むかもしれません。

こうしたバーチャルリアリティの治療プログラムが作られただけでもすごいことですが、この研究では、もう一歩踏み込み、どういったプログラムが良いのかという、プログラムの優劣まで調べているわけです。

かなり具体的なところまで、研究が進んでいますね。

もっと大人数でのデータをとったり、どのくらい効果が長続きするのかを調べたりなど、さらなる研究が必要になるとは思いますが、これは実用化も近い気がします。

そのうち、精神科の診察室にバーチャルリアリティの機械が置かれる日もくるはずです。

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