

うつ病ガイドライン徹底解説14 うつ病はまあまあ良くなったけど、、
今回は、うつ病はまあまあ良くなったけど、それでも少し症状が残っているというケースについて説明します。 こういうのを、うつ病の残遺症状と言ったりします。 こうした症状をどこまで改善させた方が良いのかは、精神科医の悩みの種です。 完璧に改善させようとして、むやみに薬を増やしていくと副作用が出る可能性があります。 それに、薬の副作用が、うつ病の残遺症状と誤解される場合もあります。 実は、抗うつ薬を飲むと、かえって落ち着かなくなったり、眠れなくなったりすることがあります。 これをアクチベーション症候群などと呼びます。 また、睡眠薬が翌日まで残り、やる気が出なかったり、ぼーっとしたりすることもあります。 睡眠薬の作用時間はとても長く、多くの睡眠薬が次の日に残ってしまうのです。 やはり、薬には副作用というリスクがあります。 軽い症状が残ったというケースであれば、心理教育、精神療法など、薬を使わない治療で改善を試みるという方法を考えた方が良いのかもしれません。 また、なかなか良くならない場合には、やはり、双極性障害などの別の疾患が隠れていないかということも慎重
精神疾患をVRで治療する
(こちらは昨年にnoteで公開した記事を一部修正して公開しています) 被害妄想という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 自分が誰かに攻撃されるとか、狙われているなどと思い込むものです。 この被害妄想は、ちまたでも使われる言葉だと思います。 誰でも状況次第で、ふと、そんな気分になることもあるでしょう。 人間が疑心暗鬼にかられることは、めずらしくありません。 ただ、精神科で「妄想」という言葉を使う場合は、かなり程度の強いものです。 実際にはないことなのに、完全にあることだと信じこんでいる、確信している場合をいいます。 例えば、電車に乗ったら、同じ車両に乗り合わせた人たち全員が共謀していて、自分を殺そうとしているなどと思い込んでしまうような。 これは現実的にはありえませんが、そうだと確信してしまうのが典型的な被害妄想です。 ちまたで使われる意味合いよりも、もっと病的だということが分かってもらえたでしょうか? たとえ、「あの人は自分に対して何か良からぬことをしているのではないか」などと証拠もなく疑ってしまうような場合でも、半信半疑だったり、自分で考えすぎ


うつ病ガイドライン徹底解説13 うつ病が良くなった後に
今回は色々な治療を行なった結果、うつ病が良くなった、その後の話をしたいと思います。 うつ病とは再発しやすい病気でもあるので、再発防止対策が重要になります。 その一つとして、薬による再発予防は十分に科学的な根拠があります。 抗うつ薬(うつ病の薬)で治療して、うつ病が改善した後も、数ヶ月は同じ用量で内服を続けた方が、うつ病は再発しにくくなるのです。 また、すでにうつ病が再発した人は、今後も再発しやすいので、さらに重点的な再発予防が必要になります。 うつ病学会のガイドラインでは、アメリカのガイドラインを引用し、「再発例では2 年以上にわたる抗うつ薬の維持療法 が強く勧められる」と書いています。 また、再発予防対策は薬を使う方法以外もあります。 精神療法、心理カウンセリングなどです。 代表的なものは、認知行動療法という、物事の捉え方、考え方を修正していき、気持ちを安定させていく方法と、対人関係療法といって、人間関係がどのように自分の心に影響しているのかを分析し、適切な対処を考えるという方法です。 こうした精神療法を、薬による再発予防と組み合わせることで、


うつ病ガイドライン徹底解説12 治療が失敗したら、、
今回は残念ながら治療がうまくいかなかった場合、失敗した場合について説明します。 一生懸命治療しても、なかなかうまくいかない場合はあります。 その場合は、謙虚に反省し、今までのプロセスについて考え直さないといけません。 うつ病学会のガイドラインでは、治療がうまくいかなかった場合に考える点を箇条書きでまとめています。そちらに沿って説明していきます。 まずは診断が適切か否かを判断します。何度も書きましたが、うつ病と双極性障害を見分けるのは難しいです。診断が間違っていると、治療法も間違ってしまうので、なかなか治療しても治らない場合は、診断ミスがないか考え直す必要があります。 うつ病と一緒に起きている精神疾患はないかどうかを考えます。不安障害や依存症などがあるとうつ病が重症化することは、うつ病ガイドライン徹底解説8でも記載した通りです。他にも、発達障害やパーソナリティ障害などについても検討が必要です。 体の異常、病気についても考えないといけません。これは、うつ病ガイドライン徹底解説1、6でも説明しましたが、脳梗塞やホルモンの異常など、様々な体の病気によって
脳と運動
(以前、noteで公開した記事を改編してお届けします) 運動は体に良いものですが、脳の健康にも良いことが最近はよく言われるようになっています。 そこで、今回は、運動の脳の関係についての論文を紹介したいと思います。 脳は、歳をとると少しずつ弱ります。 もっと具体的にいうと、脳は少しずつ縮んでいきます。 また、脳は神経ネットワークの集合体です。 たくさんの神経細胞が神経線維で繋がり合い、複雑なネットワーク(タコ足配線のコードをイメージしてください)を作っています。 この神経線維は脳の白質(脳の内側にあります)という場所に集まっています。 歳をとると、この白質にある神経線維も少なくなり、神経ネットワークがスカスカになっていきます。 しかし、できれば脳の老化は防ぎたいものです。 そこで、運動と脳の研究をご紹介します。 Cardiorespiratory fitness and brain volume and white matter integrity: The CARDIA Study. Neurology. 2015. この研究では、「心肺能力が高
個人の健康データから自殺を予見
今回は、個人の健康データから自殺企図のリスクを予見するという研究をシェアします。 引用元:Predicting Suicidal Behavior From Longitudinal Electronic Health Records. The American Journal of Psychiatry. 2017.(論文タイトル、雑誌名、発表年) これは、アメリカで行われたものです。 最近は医療、健康面の情報を電子データとして保存しておく流れがあります。 例えば、どんな病気をしたことがあり、どんな薬を使ったことがあるかという記録です。 こうしたデータは個人情報なので、セキュリティの問題があるのですが、やはり、有効活用すれば、メリットがあります。 こうした電子データを精神科領域でも役立てることができるのではないか? と考えて行われた研究をご紹介します。 なんと、自殺企図のリスクを、データから予見するというものです。 精神科においては、患者さんにとっても、医師にとっても、自殺企図は絶対に避けたい問題です。 これを防ぐには、まずは自殺のリスク評価が
HIVと脳の炎症
(こちらは昨年にnoteで公開した記事です) エイズの原因ウィルスである HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はだれでも聞いたことがあると思います。 かなり治療法が確立されてきましたが、まだまだ怖い感染症です。 なんと、世界で約3500万人も感染者がいます。 さて、このHIVですが、免疫不全を引き起こすだけではありません。 実は、脳に障害をもたらすのはご存知でしょうか? これはHIV脳症と言われています。脳症とは脳の病気という意味で、広く使われる用語です。 このHIV脳症は様々な精神症状(うつ症状、幻覚など)や認知症の症状(記憶障害など)を引き起こします。 HIV脳症の原因は諸説は色々とあるでしょうが、脳の炎症が有力な説です。 たとえば骨折すると腫れると思いますが、それは炎症が起こっているからです。風邪で熱が出るのも、炎症の影響です。 感染症はなんでも炎症を起こすものですが、脳に炎症を起こすのはまれなんです。でも、HIVは脳に炎症を起こすウィルスなんですね。 治療法が良くなってきたため、ひどいHIV脳症は減ってきたそうですが、それでも無くなったわけでは
認知症と道路
今回は認知症と道路の研究を紹介します。カナダの研究です。 引用元:Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson's disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study. Lancet. 2017.(論文タイトル、雑誌名、発表年) 「認知症と道路」って、なんのことだという感じですよね。 実は、最近は公害と脳の病気の関係が取り上げられることが多いんです。 そして、大きな道路の近くに住んでいる人の脳の機能は低いなどという報告があり、その関係性に焦点を当てた研究が行われました。 調べられたのは、認知症、パーキンソン病、多発性硬化症という三つの神経疾患、脳の病気です。 パーキンソン病は、体が動きにくくなったり、手足が勝手に震えたりする病気で、高齢者に多い病気です。 多発性硬化症は免疫が神経を攻撃する病気で、しびれや麻痺、痛み、うつ病の症状など、様々な症状を出す病気で、比較的若くして発症する方が多い


うつ病ガイドライン徹底解説11 薬を使うときの注意点
今回は、薬による治療について説明します。 うつ病の薬を「抗うつ薬」と呼びますが、この抗うつ薬には副作用があります。(ちなみに、副作用の無い薬はありません) 吐き気や下痢、眠気などが多い副作用ですが、さらに注意しなければいけないのは「アクチベーション」というものです。 アクチベーションは直訳すれば活性化、賦活化です。 意欲とか楽しい気分などの良い部分を活性化し、うつ病を治すのなら良いのですが、抗うつ薬は不安や衝動性といったネガティブな要素まで活性化してしまうことがあり、かえって精神状態が悪くなることがあります。 また、うつ病ガイドライン徹底解説8で双極性障害の人が抗うつ薬を飲むとかえって悪くなると言いましたが、診断を間違えて投薬すると精神状態が悪化することがあるので、注意しないといけません。 もちろん、正しく診断すれば良いんですが、双極性障害とうつ病は非常に見分けにくいという問題があるのです。 また、抗うつ薬は肝臓にあるシトクロームP450 (Cytochrome P450: CYP)という酵素に影響しますが、このCYPという酵素は他の薬を代謝する
パニック障害の治療の研究のまとめ
強い不安感や恐怖感と共に、胸がドキドキしたり、息苦しくなったりする症状をパニック発作と言います。 このパニック発作が何ヶ月も続く病気をパニック障害と言うのですが、パニック発作は他の病気でもよく起こるため、少し病気の定義がややこしいです。 例えば、うつ病や社交不安障害などでもパニック発作がよく起こります。 ですから、あまり厳密に病気の診断について考えなくても良いのかもしれません。とにかく、確かなのは、強い不安により動悸や呼吸困難といった症状が起きることがあるということです。 さて、最近のパニック障害の治療の研究をまとめてみました。認知行動療法に関するものが多かったですね。その中から4つを紹介します。 Insomnia Symptoms Following Treatment for Comorbid Panic Disorder With Agoraphobia and Generalized Anxiety Disorder. The Journal of nervous and mental disease. 2016. (論文タイトル、雑誌名