PTSDとアセチルシステイン
(こちらは昨年noteに公開した記事を修正したものです) いきなりですが、依存症って、皆さんはどんなものを知っているでしょうか? 覚せい剤依存症やアルコール依存症、最近だとギャンブル依存症などもメディアで取り上げられるようになっています。 この依存症ですが、実は他の精神疾患と組み合わさることが多い病気です。 つまり、依存症だけを持っているのではなく、例えば、うつ病と依存症の二つを同時に持つ ということです。 流れとしては、もちろん色々な人がいますが、例えば、うつ病になり、とにかく辛くて、その辛さを紛らわせるために、薬物に手を出して薬物依存症になってしまうというのが一つのよくある形です。 その他では、PTSDと依存症という組み合わせもよくあります。 PTSDとは、(心的)外傷後ストレス障害の略語で、英語で書くとPost Traumatic Stress Disorderとなり、その頭文字を取った言葉です。 死ぬほど辛く恐ろしい体験をした後に、夜にその時の夢を見たり、日中でも急にその当時の光景を思い出したりして恐怖を覚えるという精神疾患です。 PTS
脊髄の再生医療
(こちらは昨年noteに公開した記事を修正したものです) 今回は再生医療の話です。 ノーベル賞を取った山中先生のiPS細胞のおかげで、日本では再生医療が話題になってきました。 再生医療とは、失った細胞を再生するという治療です。 幹細胞という細胞の赤ちゃんみたいなものを使って、細胞を人工的に作るのです。 幹細胞にはiPS細胞やES細胞などいくつか種類がありますが、この幹細胞は時間がたつと色々な細胞に成長していきます。 まず前駆細胞というものに変わり、最終的に体や臓器の細胞に変わっていくのです。 こうして細胞の性質が変わっていくことを分化と言います。 このように、幹細胞は様々な細胞に変わるため万能細胞とも呼ばれます。 トランプ(USAの大統領ではなくてカードの方です)でいうところの、ジョーカー的な存在ですね。 この再生医療は、様々な医療分野で注目されていますが、神経系統の治療としても注目を集めています。 神経細胞は、一旦傷つけてしまうと、ほとんど元に戻りません。 特に、脳や脊髄などのケガや病気の治療は厳しいものがあります。 よく、脳梗塞の後に手足が麻
医療用マリファナ
(こちらは昨年noteで公開された記事を修正したものです) 今回は、医療用マリファナについての論文をご紹介します。 日本でいう大麻、英語でカナビス(canabis)とも言いますね。 日本では法律で禁止されているマリファナですが、アメリカでは多くの州で解禁されています。 まあ、そうした政策の話はさておき、マリファナは薬としての効果があるということは皆さん、知っているでしょうか? これは、医療用のマリファナ、医療用大麻などと言われます。 例えば、マリファナには吐き気止めや痛み止めとしての効果があるのは、わりと有名な話です。 こうした効能を病気で苦しんでいる人に活用するのが、医療用のマリファナです。 マリファナには様々な成分が含まれていますが、主だったものとしては、テトラヒドロカンナビノール(Tetrahydrocannabinol: THC)という使うと気持ちよくなるという精神的な作用があるものと、カンナビジオール(cannabidiol: CBD)という、そういった精神的な作用が無いものがあるそうです。 そして、カンナビジオール(CBD)の方は、精
性格の遺伝と愛情
(こちらは昨年にnoteで公開した記事を改変したものです) さて、今回は、親子についての論文をご紹介しようと思います。 世の中には様々な子供がいると思いますが、その性格は十人十色でしょう。 優しい子、明るい子、内向的な子、乱暴な子など、本当に色々いると思います。 その中で、非人間的というか、ひどく冷たい行動を取る子供もいると思います。 もちろん、子供というのは物の分別がつかないし、何が良いか悪いか分からないものですから、知らないで悪いことをしてしまうのは仕方がないかもしれません。 しかし、そうではなくて、明らかに冷酷、冷淡な行動を取ってしまう子供もいます。 そういう子供は、将来的に、反社会的な人間になるリスクが高いそうです。 悲しいことですが、小さな子供の冷淡な行動には、遺伝の要素がある、ということが、今までの研究で分かっているそうです。 つまり、親が反社会的な行動を取るような人であると、その子供も冷淡な行動を取る可能性が高いということですね。 そして、その冷淡な行動を取る子供が成長すると、反社会的な人間になったりするわけです。 なんとも、嫌な負
SSRIによる性的倒錯の治療
性的倒錯は、強迫性障害に近い場合があります。 強迫性障害とは、なんども同じ考えが浮かんだり、同じことを繰り返す病気です。 例えば、家の鍵をしめたのに、鍵がしまってないという考えが浮かんできて、なんどもしまっているか確認してしまうというものです。 自分でも考えや行動を抑えることができず、衝動的に動いてしまいます。 つまり、衝動をコントロールできない病気とも言えます。 性的倒錯も、異常な性的な考えが浮かんできて、衝動的に行動に出てしまう人がいます。 このように衝動をコントロールできないタイプの性的倒錯は、強迫性障害に似ています。 このため、強迫性障害の治療にそって、性的倒錯を治療する場合があります。 強迫性障害では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIと略します)という抗うつ薬の一種を使うのですが、同じように性的倒錯にもSSRIを使うという治療があるのです。 これで、性的な衝動を抑えるわけです。 ただ、性犯罪を防ぐほどの効果があるというデータはないので、性犯罪のリスクがある人には不十分な治療になります。 また、再三お伝えしている通り、今の日本で
軍人さんの心のサポート
日本でも軍隊や戦争についての議論が時々ありますが、海外では、あちこちで戦争が今も起きています。 戦地に派遣される軍人さんたちのストレスは大きく、心を病んでしまう方も多くいらっしゃいます。 そうした軍人さんに対し、精神疾患じゃないか検査するシステムがあるそうです。 戦地のストレスに関係する精神疾患ですと、トラウマが関係するPTSDや、うつ病、不安障害やアルコール依存症などがあります。 そこで、軍人さんたちに、こうした精神疾患が無いかどうか、アンケートなどでチェックするわけです。 いわゆるスクリーニングです。 これで早期発見できれば、早期治療に結びついたり、治療までいかなくても、他の人に相談するくらいはできるかもしれません。 そうしたら、最終的に精神疾患で苦しむ人たちが減るはずです。 そこで、イギリスで、こうしたシステムが本当に有効なのか調査されました。 これは、ランダム化比較試験という、かなりしっかりした研究スタイルです。 Post-deployment screening for mental disorders and tailored adv
GnRHアナログによる性的倒錯の治療
アナログは類似物とか類似体という意味です。 私たちの体の中には、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)放出ホルモン、略してGnRHというホルモンがあり、人間の生殖機能に対して重要な役割を担っています。 そのGnRHと似た働きを持つ薬物なので、GnRHアナログと言うわけです。 このGnRHアナログは、日本でも、子宮内膜症や子宮筋腫,前立腺癌、乳癌などの治療に用いられます。 そして、性欲を抑える効果も強いことから、海外では性的倒錯の治療にも用いられています。 性欲を抑えるメカニズムも簡単に説明します。 抗男性ホルモン薬による治療の説明でも書きましたが、男性ホルモンを抑えることで、性欲を抑えるという方法が、性的倒錯の主流な治療法です。 このGnRHアナログは、黄体形成ホルモン(LHと略します)という別のホルモンを分泌させ、その影響で一時的に男性ホルモンが増えます。 「男性ホルモンが増えると性欲が増えるので良くないのでは?」と疑問に思う人もいると思いますが、これはあくまで一時的な反応なんです。 継続的にGnRHアナログを使うことによって、逆の反応が起こってき
男性ホルモンを抑える性的倒錯の治療
性欲と男性ホルモン(アンドロゲンとも言います。色々ありますが、主な男性ホルモンはテストステロンです)は関係していると考えられています。 男性ホルモンの働きを抑えることで、性欲を抑えるという治療があり、これが性的倒錯の治療に用いられることがあります。 プロゲステロンという、女性の妊娠などに関わるホルモンには、男性ホルモンを抑える効果がありますが、このプロゲステロンと似たような働きをする薬物が、男性ホルモンを抑える治療に使われます。 こうした薬を、そのまんま、抗男性ホルモン薬、抗アンドロゲン薬などと言います。 さて、ここで、ざっくりとホルモンの説明をします。 ホルモンは様々な内臓、器官から分泌されて血液中を流れていますが、最終的には受容体というものに受け取られて効果を発揮します。 男性ホルモンについても同じで、男性ホルモンの受容体があるわけですが、抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンが受容体に受け取られるのを阻止します。 このため、男性ホルモンは効果を発揮できなくなるわけです。 また、これとは別の方法で男性ホルモンを抑える働きもあります。 抗男性ホルモン
麻薬で麻薬をやめる
ヘロインという麻薬をご存知でしょうか? 日本ではあまり話題になりませんが、依存性の強い薬物の一つで、アヘン、モルヒネなどの仲間で、オピオイドという種類の薬物になります。 海外ではヘロイン依存症の方も多いようですが、このヘロイン依存症の治療として、ヘロインから他のオピオイドにすり替えていくといった治療があります。 例えば、メサドンやブプレノルフィンといった、同じオピオイドの中でも毒性の少ないものを薬として使い、その代わりにヘロインを止めるという治療です。 つまり、目には目をというか、麻薬を使って麻薬をやめるという治療ですね。 こうした方法で、ヘロインを止めることができれば、少なからずメリットはあります。 しかし、他の問題が新たに引き起こされている可能性もあるようです。 今回は、スイスで行われた、このヘロインを他のオピオイドにすり替える治療の問題点を調べた研究を紹介します。 Changes in substance use in patients receiving opioid substitution therapy and resulting
性的倒錯の治療ガイドラインの徹底解説
異常性欲などとも言われますが、性的倒錯(小児性愛や性的サディズムなど)の治療についてガイドラインを元に解説します。 元にするガイドラインは、世界生物学的精神医学会が2010年に発表したものです。 参考文献:The World Federation of Societies of Biological Psychiatry (WFSBP) Guidelines for the biological treatment of paraphilias. The World Journal of Biological Psychiatry. 2010. 性的倒錯とは、通常の性欲や性行為とは違った空想にふけったり、性的行為に及んだりするもので、男性に多い精神疾患です。 例えば、小児性愛(いわゆるロリコンですね)、窃視症(いわゆる、のぞきです)、露出症(他人に下半身を見せるなど)、フェティシズム(ちまたで言われるフェチというレベルではなく、例えば男性が女性の下着をつけて性的行為に及ぶなど)、性的サディズム(性行為の最中に暴力を行うなど)などなど、色々とありま