自律神経失調症とパワハラ
強いストレスがかかると胃が痛くなったり、頭が痛くなったりなど体に反応が出るのは誰でも知っていると思います。ストレスで胃に潰瘍ができたり、アトピー性皮膚炎が悪化したり、糖尿病や高血圧が悪化したりと、様々な病気がストレスに関係します。まさに、病は気からです。 しかし、こうした病気以外にも、自律神経症状というものが出ることがあります。神経は電気信号で動くので、とても早い反応になります。例えば、強い恐怖を感じた時に、脈拍が上がるのは自律神経の反応です。これも精神的なストレスに体が反応した状態ですが、素早く脈拍が上がることから、反応の早さが分かります。こうしたストレスによる自律神経症状はいたるところで見られます。 働く人のメンタルヘルスで考えると、今や問題になっているパワハラ(パワーハラスメント)のケースなども考えられます。上司に怒鳴られると誰でも辛いと思いますが、それが行き過ぎた場合は体に反応が出ます。例えば、大勢の前で怒鳴られ、嘲笑され、自尊心を深く傷つけられたり。机を叩く、椅子を蹴るなどの暴力的な方法で威嚇したり。ひどいパワハラはいくらでもあります。
自律神経失調症とパニック
パニック発作という言葉をご存知でしょうか。パニックという言葉は、例えば「パニック」映画など結構、日常的に使われます。慌てふためくという意味でもパニクるなどと表現したりもしますし、結構軽い意味合いですよね。ただ、精神科でいうパニックは意味がだいぶ違います。 パニック発作は、急に動悸や息苦しさを感じ、強い不安感や恐怖感に襲われるという症状です。ちょっと慌ててしまったなどというパニックとは全く異なります。他にも、めまいがしたり、吐き気や下痢などの胃腸の症状が出たり、冷や汗が出たり、手足が痺れたりと様々な症状が出ることがあります。どの症状が出るかは人によって違います。こうした症状をまとめて自律神経症状と呼びます。このためか、パニック発作も自律神経失調症の仲間にしてしまう考え方もありますが、そもそも自律神経失調症が正式な病名ではないので微妙な分類でしょう。日頃から自律神経のバランスが崩れているわけではなくて、発作的に、急激に自律神経症状が出ます。普段はなんでもないのに、発作が出たときだけ精神的に不安定になるので、周りからは理解されにくいこともあります。パニ

睡眠アプリはメンタルヘルスを改善する
最近はスマホのアプリの中でメンタルヘルスに関わるものが出てきました。やはり、こうした研究は海外の方が強いのですが、少しずつ日本でも開発が進んできている印象です。 海外でよくあるメンタルヘルスのアプリが、認知行動療法のアプリです。認知行動療法とは、物事の捉え方を変え、自分の行動を変えていくことで、気持ちの持っていき方を変えるような手法です。簡単に言えば、ネガティブな考え方をポジティブに変えていく感じです。すでに精神科の治療にも使われており、その有効性は科学的にも証明されています。この認知行動療法は、色々なやり方があります。基本は、カウンセラーと一対一で会話しながら進めていく形式です。また、自分一人でガイドの文書を読みながらノートに自分の考え方を書き込み、ガイドに従って修正していくというワークブックの形式もあります。これは、いわばメンタルヘルスの参考書みたいな感じです。本でも可能な方法ですから、当然スマホやパソコンでも可能なわけで、アプリも出ているのです。 この認知行動療法ですが、睡眠の改善に特化したものがあります。これは以前、睡眠薬のガイドラインの

抗NMDA受容体脳炎とMRI
抗NMDA受容体脳炎という病名を聞いたことがある人はほとんどいないと思います。 医療者でもほとんどの人が知らない病名です。 これは最近になって見つかった免疫の異常による病気です。 細菌やウイルスが体内に入ると、抗体という物質が細菌やウイルスにくっつき、その後に細菌やウイルスをやっつける細胞がやってくるという免疫のシステムが私たちの体の中にあります。 この抗体が、外部の敵にくっついてくれると良いのですが、システムの誤作動で、自分の体内にくっつく抗体が生まれてしまうことがあります。 自分にくっつくので、自己抗体と呼びます。 関節にくっつくもの、皮膚にくっつものなど色々な自己抗体がありますが、脳にくっつく自己抗体もあります。 そして、最近、精神科の研究レベルで注目されているのが、脳の神経細胞にあるNMDA受容体という場所にくっつく自己抗体です。 そのまんま、抗NMDA受容体抗体と呼びます。 NMDA受容体は脳のいたるところにあって、感情や記憶など脳のさまざまな機能に関わってます。 ここに抗体がくっつくと、そうした脳の機能が悪くなり、強い不安感を抱いたり
依存症はなぜ悪いのか?
なんで依存症は悪いのでしょうか? 人間は何かしらに依存して生きているものです。例えば、たいていの人は家がなければ生活は成り立ちません。言い方を変えれば、人は家に依存して生きています。食事をしなければ、生きていけません。つまり、食事に依存して生きています。しかし、家依存症とか、食事依存症なんて、あまり言わないですよね。そんなの何が悪いのかという話です。家に依存して生きても困りません。食事も食べ過ぎなければ良いだけです。つまり、依存していても特に支障が無ければ、依存症とは言わないわけです。そもそも、精神疾患とか精神障害というものの考え方として、生活や健康に支障が無ければ病気じゃないという定義があります。例えば、気持ちが落ち込んだとしても、普段の生活はそれなりに成り立っていたら、うつ病とはみなさないわけです。依存症なんかも同じです。お酒に依存してしまうと肝臓を壊したり、癌になりやすくなったり、認知症になったりします。アルコール依存症の特集記事でも書きましたが、アルコール依存症は甚大な健康被害をもたらします。また、二日酔いや酔っ払った状態ではまともに仕事
精神疾患でなくても労働意欲はなくなる
今回はエッセイ風に労働意欲について語りたいと思います。 労働意欲は精神疾患とも関係が深いですが、それ以外の要因とも深く関わります。 当然ですが、労働意欲が無ければ精神疾患というわけではありません。 それなのに、労働意欲が無ければすぐに精神疾患という風潮が生まれる可能性もあるように思います。 そもそも、意欲的に働く人はそんなに多くはないでしょう。 逆に少ないからこそ、意欲的に働く人をうらやむ気持ちを持つ人も多いのかなと思います。 働く意欲、モチベーションにあふれている人、意識高い系という流行り言葉に代表されるような人。 こうした人は希少です。 そんなに働く意欲がない人、働きたくないわけではないけどそこそこで良い人など、ほどほどに労働意欲がある人がほとんどでしょう。 まあ、過ぎたるは及ばざるがごとしとも言いますし、個人的には労働意欲なんてほどほどで良いという意見です。 ただ、働く意欲がないことを悪いことだと捉え、他人に対しても意欲的に働くことを求める人も少なくありません。 「やる気あんのか!」などと批判する人たちです。 そういう人たちのせいか、自分が

ベンゾジアゼピンと働く人
ベンゾジアゼピンという薬をご存知でしょうか。不安を取ったり、眠気を誘うような作用のある薬で、抗不安薬と睡眠薬に大別されます。抗不安薬ですと、例えば、アルプラゾラム(ソラナックス)などがあり、睡眠薬ですとブロチゾラム(レンドルミン)などがあります。また、デパス(エチゾラム)は構造的にはチエノジアゼピンになりますが、ベンゾジアゼピンとほぼ同じ作用、副作用があるため、同等と考えられている薬です。 こうしたベンゾジアゼピンは日本ではよく処方されますが、アメリカなんかでは依存性が強いため麻薬と同じような扱いを受けています。もちろん病院で処方される薬にはなりますが、取り締まりは日本より強めです。日本では病院やクリニックがベンゾジアゼピンを処方しすぎるので、問題になっています。というのも、ベンゾジアゼピンには色々と副作用があり、しかも依存性があるのでやめたくてもやめられないことが多いからです。今回はそんなベンゾジアゼピンにまつわるアメリカの調査報告を紹介します。 Characterizing the Interrelationships of Prescrip
自律神経失調症と糖尿病
自律神経とは内臓や血圧を調整する神経のことです。自律神経が障害されることを、俗に自律神経失調症と言いますが、正式には自律神経症状や自律神経障害などと言うことが多いです。というのも、自律神経の不具合はあくまで症状であり、何らかの病気の結果として生じるものです。つまり、本当の原因は自律神経失調症という病気ではなく、原因となる病気が他にあるわけです。自律神経失調症は精神疾患や精神的ストレスとの関わりが有名ですが、その他にも自律神経の症状が出る病気はあります。今回は、その一つである糖尿病について解説します。 糖尿病という病名は誰でも聞いたことがあると思います。血糖値、つまり血液中の糖分が高くなり、尿にも糖分が出てきたりします。免疫の異常で膵臓が障害されてインスリンという血糖値を下げるホルモンが出なくなる1型糖尿病と、生活習慣や肥満などが影響する2型糖尿病がありますが、どちらの糖尿病でも神経が障害されることがあります。 手足の先にある、末梢神経が障害されると手足の感覚が麻痺したり、手足が痺れたりします。そして、自律神経が障害されると、腸の動きが悪くなって便

抗てんかん薬で双極性障害を治療する
今回は抗てんかん薬を双極性障害の治療に用いる場合を解説します。てんかんとは脳が発作的に興奮して、意識を失ったり、体が痙攣したり、硬直したりする病気です。子供に起きることが多いですが、脳梗塞など脳の病気で起きることもあり、歳をとって脳が傷むとてんかんになりやすくなったりします。 こうした、てんかん、という病気を治療する薬が抗てんかん薬ですが、この一部には双極性障害を治療する効果があり、実際に病院やクリニックでも双極性障害の治療に抗てんかん薬が使われることは珍しくありません。代表的なものは、バルプロ酸で、商品名で言うとデパケンやセレニカなどになります。双極性障害の治療は、躁病の治療、うつ病の治療、再発予防のための維持療法などに分かれますが、バルプロ酸は躁病の治療に優れています。うつ病の治療にもある程度は有効ですが、再発予防の効果はほとんど無いようです。パルプロ酸は採血して血中濃度を測ることができ、この血中濃度を指標にして用量を調節します。副作用は、だるくなったり、食欲が増えたり、めまいや眠気が出たりなどがあります。稀にアンモニアという数値が上がってし
自律神経失調症とうつ病
自律神経失調症は正式な病名ではなく、原因となる病気は他にあります。その中に精神疾患が含まれます。精神疾患と一言で言っても様々なものがありますが、うつ病は代表的な精神疾患の一つです。うつ病は大うつ病とも言いますが、どちらかというと重症度の高い精神疾患で、色々な症状が出ます。気持ちが落ち込む、悲しい、辛いなどといった感情は抑うつ気分と言いますが、抑うつ気分はうつ病の中核的な症状です。また、何に対しても興味がなくなる、どうでもよくなる、楽しいことも喜びも全くといっていいほど無いような症状、興味や喜びの喪失だとかアンヘドニアなどと言いますが、これもうつ病の中核的な症状です。この他にも、食欲がなくなったり、眠れなくなったり、頭が回らなくなって、優柔不断になったり、仕事の能率が下がったりと本当に色々な症状があります。 こうした中で、うつ病は体の異変も生じることが知られています。うつ病になると頭が痛くなったり、胃が痛くなったりと、体のあちこちに痛みという症状が出るのは有名な話です。うつ病が良くなるとこの痛みの症状も良くなりますが、最近はセロトニンとノルアドレナ