抗NMDA受容体脳炎とMRI
抗NMDA受容体脳炎という病名を聞いたことがある人はほとんどいないと思います。
医療者でもほとんどの人が知らない病名です。
これは最近になって見つかった免疫の異常による病気です。
細菌やウイルスが体内に入ると、抗体という物質が細菌やウイルスにくっつき、その後に細菌やウイルスをやっつける細胞がやってくるという免疫のシステムが私たちの体の中にあります。
この抗体が、外部の敵にくっついてくれると良いのですが、システムの誤作動で、自分の体内にくっつく抗体が生まれてしまうことがあります。
自分にくっつくので、自己抗体と呼びます。
関節にくっつくもの、皮膚にくっつものなど色々な自己抗体がありますが、脳にくっつく自己抗体もあります。
そして、最近、精神科の研究レベルで注目されているのが、脳の神経細胞にあるNMDA受容体という場所にくっつく自己抗体です。
そのまんま、抗NMDA受容体抗体と呼びます。
NMDA受容体は脳のいたるところにあって、感情や記憶など脳のさまざまな機能に関わってます。
ここに抗体がくっつくと、そうした脳の機能が悪くなり、強い不安感を抱いたり、幻覚が見えたり、覚えることができなくなったりします。
症状が統合失調症などの精神疾患に似ているので、精神疾患と誤診されることもあります。
これを、抗NMDA受容体脳炎と呼ぶのです。
この抗NMDA受容体脳炎は、なかなか普通の検査で見つけにくいという特徴があり、普通のCTとかMRIなどの画像検査では分からないことが多いです。
なので、どのくらいこの病気の人がいるのか分かりませんし、まだまだ闇のベールに包まれている病気なのです。
今回は、この抗NMDA受容体脳炎の研究についてご紹介します。
ドイツの研究です。
この研究では43人の抗NMDA受容体脳炎の患者さんと同世代の普通の人たち43人を集めて、MRI検査を行いました。
普通の人たちは比較対照です。
普通の方法ではMRIで異常は出にくいのですが、ここでは脳の機能を測定する特殊な方法がとられています。
また、結果をコンピュータで解析するのですが、最近流行りの機械学習、マシーンラーニングも使っています。
この結果、神経ネットワーク、脳細胞同士の繋がりのあちこちに異常が見られました。
当然、神経ネットワークの場所により、出てくる症状も違います。
例えば、海馬という記憶をつなぐ場所を通るネットワークが障害されている人は記憶力が悪くなっていて、前頭葉と頭頂葉をつなぐネットワークがおかしくなった人は幻覚や妄想など統合失調症に似た症状が出ていたそうです。
ちなみに、普通のMRIのやり方では72%の人が正常だったということですから、やはり特殊な方法を使わないと分かりにくい病気なんです。
異常をしっかりと検出できる検査が広まれば、もっと正確に抗NMDA受容体脳炎を診断でき、適切な治療に繋げられます。
これが精神疾患と誤診されてしまっては、治療も全然違うものになってしまいます。
まずは正確に診断するための良い検査が必要ですね。
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