
統合失調症の脳画像から多様性と共通点を探す
統合失調症は幻聴、幻覚や妄想といった症状の出る精神疾患です。治療としては脳のドーパミン系の神経の興奮を抑える薬である抗精神病薬を使います。この治療法からも分かる通り、統合失調症は脳の病気です。もちろん、ストレスが良くないとか、心理的な原因も少なからずあるのですが、遺伝性もあり、生まれながらの脳の病気という側面も強いです。 脳の病気なのであれば、脳の検査により診断するのかと思う方も多いと思いますが、現段階ではしっかりとした統合失調症の検査はありません。例えば脳梗塞といった脳の病気では、脳のMRIという脳画像検査を使い診断します。このように生物学的な部分を調べる検査をバイオマーカーと呼びますが、統合失調症のバイオマーカーはまだ研究段階であり、しっかりとしたものは使われていません。 統合失調症のバイオマーカーの候補となっている検査は色々とあるのですが、その1つが先ほども書きましたが脳のMRI検査です。これは、磁気の力を使い脳の構造や機能を読み取ることができる装置です。 統合失調症のMRI検査の論文はたくさんあるのですが、今回は数々の論文をまとめたもの、
統合失調症の陰性症状の薬への質問に対する回答
先日公表した記事、「統合失調症の陰性症状(無気力など)を治す薬」に以下のようなお問い合わせがありましたので、回答させていただきます。 ■公表の同意 記入した内容の公表に同意します。 ■年代を選択してください。 30代 ■性別を選択してください。 男性 ■子供時代について教えてください。 子供時代はおとなしく、勉強はよくできてました。 ■いつから、どんな症状があるのか、時間の流れに沿っ... 28歳の時に、統合失調症になりました。いまは34歳です。 ■現在の生活、職場環境や人間関係について教えてくだ... 現在は実家で療養しています。 ■もし、現在治療中の身体の病気・ケガや、過去に治療... 小さい時から鼻炎の薬を服用していました。 ■もし、家族や親戚に精神疾患や認知症の方がいれば、... 親戚に、統合失調症の方がいたようです。 ■最後に、何か聞きたいことや相談したいことがあれば... 統合失調症の陰性症状(無気力など)を治す薬はいつごろ、日本でも販売予定でしょうか?あ5年くらいでしょうか? やはり、患者さん当人としては薬や医療の発展は気になると思

うつ病と親と子
子供にとって、親の存在は大きいですよね。子供は1人で生きていくことができませんので、どうしても親に頼らざるをえません。親を頼るということは、親に左右されるということです。もちろん、親から良い影響を受ける場合もありますが、悪い影響を受けることだって時にはあるでしょう。こうした親と子のつながりは、精神科においても大事になってきます。今回は父親がうつ病の場合、子供にどのような影響が出るのかを調べたアイルランドとイギリスによる研究をご紹介します。 精神疾患の原因は様々です。脳の異常なども関係しますが、周りの人間の影響も多いにあり、特に家族の影響は少なくありません。特に、子供の頃は親の影響を受けやすいと思います。ある調査によれば自分の心の問題が子供の頃から始まったと考えている人が3/4ほどいるとか。それくらい子供の頃の精神状態は大人になってからも残るということです。この中で、やはり家族との関わりが大きな問題になります。すでに、お母さんがうつ病の場合は、その子供もうつ病になりやすいことが分かっています。しかし、父親と子供の関係はまだよく調べられていないとのこ


PTSDのバイオマーカーは音と脳波?
精神疾患は症状だけで診断を下すのですが、この診断の精度がよく問題になります。例えば、内科でなんの検査もせずに発熱とか咳とか症状を聞いただけで診断するってあまり無いですよね。まあ、風邪くらいならあるかもしれませんけど、ある程度の重い病気になれば、必ず採血したり、レントゲンを撮ったりします。でも、精神科では検査がほとんどありません。これではちゃんと診断できているのか客観的に証明することができないので、精神科の診断はいい加減だと思われてしまうこともあります。これをなんとかするには精神疾患でも検査が必要だと考えられ、世界中で研究されています。この検査のことを生物学的指標(バイオ・マーカー)と言います。さまざまなバイオマーカーがありますが、古くから研究されているバイオマーカーに脳波検査というものがあります。脳波とは脳が出す微弱な電気のことで、一定の周波数があるので脳波と呼ばれます。原理的には、心電図の検査に近いですね。
今回はPTSD(外傷性ストレス障害)という病気の脳波検査について調べた研究を紹介します。 引用文献:Bangel KA, et al.

統合失調症の陰性症状(無気力など)を治す薬
統合失調症の陰性症状に効く薬がイスラエルで開発されたようなので、ご紹介します。それにしても、最近はイスラエルのスタートアップがすごいと良く耳にしますね。 統合失調症とは、20歳くらいに幻聴や被害妄想などが出てくる病気ですが、こうした幻覚妄想という症状は陽性症状と呼ばれます。統合失調症は陽性症状だけでなく、やる気が出なくなって活動性が低下したり、感情が乏しくなって喜怒哀楽の変化が少なくなるような陰性症状というものも出てきます。陰性症状が出ると働く気力もなくなるので経済的に厳しくなりますし、このため生活保護を受ける場合もあります。また、引きこもりの原因にもなるので、かなり生活の上では問題になってきます。生活保護や引きこもりは社会問題にもなっていますので、個人の問題ではすみません。 このように大きな問題を引き起こす陰性症状ですが、今までは陰性症状を改善する薬はほとんどありませんでした。非定型抗精神病薬または第2世代抗精神病薬というものが陰性症状に効くとうたう場合がありますが、これは古い定型抗精神病薬というものが陰性症状を悪化させるのに対し、非定型抗精神
ベンゾジアゼピン副作用まとめ
今回はベンゾジアゼピンの副作用について、まとめて解説したいと思います。ベンゾジアゼピンは病院で処方される抗不安薬や睡眠薬の種類で、沢山の薬があります。代表的なものはアルプラゾラム(ソラナックス)、ロラゼパム(ワイパックス)などです。色々ありますが、同じタイプなので作用や副作用は共通しています。また、エチゾラム(デパス)も作用、副作用はベンゾジアゼピンに近く、同系統と考えて良いです。 さて、まず語らねばならないのは依存性です。ベンゾジアゼピン依存症という言葉もあるくらい、ベンゾジアゼピンの依存性は有名です。依存には精神的依存と身体的依存があります。身体的依存は、いわゆる依存症とは少し違い、毎日使用している薬ではよく出るのですが、急にやめると反動として離脱症状が出るというものです。これを防ぐために、少しずつ徐々に薬を減らします。身体的依存が出ても、ゆっくり減らすことで薬を中止できることは多いです。しかし、精神的依存はやっかいです。もうこの薬がないとダメだという気持ちになったり、薬をやめても落ち着かなくなったり、また強烈に欲しくなるなど、いわゆるアルコ

リチウムまとめ
リチウムと聞くとみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。一般的に聞く名前であれば、リチウム電池ですかね。あれは電池の中にリチウムを使っています。リチウムは金属の一種です。 さて、精神科医の場合、リチウムと聞くと向精神薬を思い浮かべます。リチウムという金属を内服可能にしたものが炭酸リチウムという化合物で、これが精神を安定させる薬として古くから使われています。金属は液体に溶けるとイオン化します。リチウムはリチウムイオンになります。このリチウムイオンが脳に影響を及ぼし、気持ちを落ち着かせるのです。これがどういうメカニズムなのか、まだはっきりしていないようですが、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)という酵素に作用するなど諸説あります。 リチウムは双極性障害、別名、躁うつ病という精神疾患の治療薬として有効であることは分かっており、現在の双極性障害の治療ガイドラインでも推奨されています。また、研究段階ではありますが、他にもさまざまな効果があると言われ、かなり注目されている成分です。 このブログでも、リチウムについてたびたび取り上げきました。以下に

リチウムは高齢者でも大丈夫
炭酸リチウムは双極性障害の治療に使われます。双極性障害とは、躁うつ病とも呼ばれますが、躁状態とうつ状態の両方の症状が出てくる病気です。躁状態とは、気持ちがハイになり、自信やエネルギーがみなぎり、とても活動的になる症状のことです。逆に、うつ状態はうつ病と同じで、気持ちが落ち込み、悲しくなり、元気がなくなる症状のことです。このように、全く違う二つの症状が出るので双極性という名前がつけられています。双極性障害はガイドラインも出てますが、薬を中心に治療する病気です。 この双極性障害を治療する薬が炭酸リチウムで、躁状態にもうつ状態にも効果があります。双極性障害の薬は他にもありまして、代表的なものにバルプロ酸という薬があり、また非定型抗精神病薬という脳のセロトニン系の神経とドパミン系の神経を調整する薬も使われます。 しかし、薬には副作用もあるので気をつけねばなりません。特に高齢になった方では副作用が出やすくなります。若い人が使っても特に問題ない薬であっても、お年寄りが使うと副作用がひどく出てしまうこともあります。なので、年齢の影響を考えなければならないんです