

急性アルコール中毒の治療
さて、今回も世界生物学的精神医学会のガイドラインに沿って、アルコール依存症の治療について解説していきたいと思います。 今回は、急性アルコール中毒についてです。 アルコール中毒の略語である「アル中」というと、一般的にはアルコール依存症のことを指していると思います。 ただ、本来、「中毒」というと大量の物質を体内に取り込み害が出ている状態を言います。 したがって、急性アルコール中毒とは、大量のアルコールを体内に取り込み、体に害が出ている状況のことを言います。 アルコールの力は怖いもので、ひどいと昏睡状態になることもありますし、さらに重症になると脳の呼吸中枢に作用して呼吸を止めてしまうこともあります。 当然、呼吸が止まれば死んでしまうわけですから、非常に危険な状態です。 このようにアルコール中毒状態におちいった場合は、とにかく心臓や呼吸を止めないように、全身管理が必要になります。 急性アルコール中毒の時は、大体が脱水状態ですから、点滴をして水分を補います。 また、アルコールを摂取するとビタミンB1(チアミン)が消費されるので、点滴にビタミンB1を入れます


アルコール離脱症状の治療2
ベンゾジアゼピン系以外の薬もアルコールの離脱症状の治療に使うことがあるようです。 γ(ガンマ)-ヒドロキシ酪酸という薬は、GABAという神経伝達物質に似た作用があり、これもアルコールの離脱症状の治療に有効です。 ただ、乱用の危険性がある薬とのことです。日本では使われない薬です。 他には、クロメチアゾールという薬もやはりGABAと似た物質で、アルコールの離脱症状の治療として使っている国もあるようですが、日本では使われていません。 他には、ガバペンチンという日本でもてんかんの治療に使う薬が有効というデータがあるようです。 このガバペンチンにもGABAと似た作用があります。 この前説明したベンゾジアゼピン系の薬もGABAに似た作用があります。 つまり、アルコールの離脱症状の治療では、GABAという神経伝達物質が共通のキーワードになっています。 さて、GABAの話ばかりでしたが、他にも関わる神経伝達物質があります。 グルタミン酸です。 グルタミン酸は様々な神経系に関わる神経伝達物質ですが、このグルタミン酸をブロックする薬がアルコールの離脱症状の治療に使え
精神症状とアルツハイマー
認知症という病気は色々ありますが、共通の定義がありまして、生活に支障が出るほどの記憶力低下や判断力の障害があると認知症と診断されます。 なので、脳に異常が出ても、記憶力や判断力なんかが問題なければ認知症とは言わないことになります。 認知症で一番多いものは、アルツハイマー型認知症というもので皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれません。 脳にアミロイドやタウといったタンパク質(ペプチド)がたまって神経細胞にダメージが出て、記憶力や判断力が低下する病気です。 しかし、脳にこのような異常が出てから記憶力や判断力が低下する認知症の状態になるまで、かなりタイムラグがあります。 実は20年くらい前から、脳に異常は出てるんですね。 この場合は、記憶力などは正常なので、アルツハイマー型「認知症」とは言わず、アルツハイマー病とだけ言ったりします。 今回は、このように、アルツハイマー病の異常が脳に出てきているけれど、まだ記憶力は問題ない、認知症になる前の状態の人の研究をご紹介します。 中国の研究ですね。 参考文献:Neuropsychiatric symptoms


アルコール離脱症状の治療
引き続き、世界生物学的精神医学会のガイドラインに沿って、アルコール依存症の治療について解説していきます。今回はアルコールの離脱症状の治療についてです。 参考文献:Guidelines for biological treatment of substance use and related disorders, part 1: Alcoholism, first revision. THE WORLD JOURNAL OF BIOLOGICAL PSYCHIATRY. 2017 長らくアルコールを大量に飲み続けていると、心も体もアルコールに依存してしまいます。 心の依存は分かりやすいですが、体の依存(身体的依存)というのもあるのです。 体がアルコールに依存すると、アルコールをやめた後に離脱症状が出ます。 早いとアルコールを中断してから数時間、遅くても数日以内に、様々な症状が出てきます。 例えば、汗が出てきたり、血圧が上がったり、手が震えたり、不安で落ち着かなくなったり、吐き気がしたりといった症状ですが、幻覚が出たり、認知症のように記憶力や判断力が


アルコールの神経伝達物質への影響
お酒はさまざまな害をもたらすことは誰でも知っていると思います。 肝臓を痛めたり、心臓病や癌になりやすくなったりと、健康を害する原因になります。 しかし、脳への影響も強いことは知っているでしょうか? 世界生物学的精神医学会のガイドラインを参考に、アルコールの脳への影響について解説したいと思います。 参考文献:Guidelines for biological treatment of substance use and related disorders, part 1: Alcoholism, first revision. THE WORLD JOURNAL OF BIOLOGICAL PSYCHIATRY. 2017 脳の中にはたくさんの神経細胞があり、お互いに連絡しています。 その連絡を取り合うのに大事なのが、神経伝達物質です。 ある神経細胞から神経伝達物質が出て、別の神経細胞にある受容体というところで受け取ります。 神経伝達物質と受容体はセットみたいなもので、まとめて考えることが多いです。 例えば、うつ病に関わる神経伝達物質の一つに、セロ
バーチャルリアリティが精神科の治療になりそうです
バーチャルリアリティ、略してVRが徐々に普及してきていますね。 VRのゲーム機が発売されて話題になったりもしました。 このVRですが、遊ぶ、楽しむという目的だけで使われるわけではありません。 現実の空間を再現できるので、シミュレーションとして使うこともできますし、トレーニングとして使うこともできます。 そして、メンタルの治療にも役立つことが分かってきています。 そもそも、人間は周りの空間、環境に心を揺さぶられる生き物です。 なので、周りの空間、環境を作り変えることができるVRは、人間の心に関わりやすいと言えます。 今回は、このVRがメンタルの治療にどこまで役立つのかを明らかにするため、今までの研究をまとめた論文を紹介します。 論文をまとめるというのは、系統的レビューという手法で、多くの研究結果を集めて解析したものですね。 Virtual reality in the assessment, understanding, and treatment of mental health disorders. Psychol Med. 2017. (論文