休職した同僚や部下にどう対応すれば良いのか?
職場で何らかのストレスを抱えている人は多いと思います。仕事が上手くいかない、高いスキルを要求される、締め切りが迫っている、などといった仕事の内容に伴うストレスもあると思います。また、上司がパワハラをする、同僚からいじめにあっているなど人間関係のストレスもあると思います。
働く人のストレスは様々だと思いますし、何のストレスもない状態では良い働きもできないでしょう。例えば、締め切りがなければいつまでたってもやる気が出ないこともあると思います。ある程度のプレッシャーがあって初めて動く人も多いと思います。
しかし、過剰なストレスは人間のパフォーマンスを下げます。焦りすぎて頭が働かなくなった経験を持つ人はたくさんいるでしょう。また、ストレスが、適応障害、不安障害やうつ病などのメンタルヘルスの問題を引き起こすこともあります。こうなると治療に時間がかかりますし、場合によっては病気休暇を申請する、つまり、休職する必要が出てくるかもしれません。
社員が休職してしまっては、休んでいる本人だけでなく会社全体としてもマイナスです。こうならないように、ストレスのマネジメントの必要性が叫ばれています。今回は、職場のストレスをどう管理すればよいのかを調べたオーストラリアの研究を紹介します。
参考文献:Workplace mental health training for managers and its effect on sick leave in employees: a cluster randomised controlled trial. Lancet Psychiatry. 2017(論文タイトル、雑誌名、発表年)
職場の雰囲気を作っている人は、いろんなパターンがあるとは思いますが、やはり上司でしょう。グループのリーダー、課長、部長など「長」がつく人たちは権限もあれば管理責任もあるポジションです。こうしたリーダー格の人たちが従業員達の心の健康、メンタルヘルスの鍵を握るのは間違いありません。
オーストラリアでは、上司たちに対する教育プログラムとして”RESPECT Manager Mental Health Training”が作られました。これはメンタルな病気で休職してしまった人に上司がどう対応するかを説いたプログラムです。簡単にいうと、休んだ人を放っとかないで、しっかりコミュニケーションを取り、サポートしてあげましょうということですね。ちなみに、このRESPECTとは以下の文章の頭文字です。私の訳(というか意訳)も載せておきます。
Regular contact is essential.(常に連絡を取ることが必要) Earlier the better.(早く連絡を取る方が良い) Supportive and empathetic communication.(優しく、かつ思いやりをもったコミュニケーション) Practical help, not psychotherapy.(カウンセリングじゃなくて良いので、しっかりと支援する) Encourage help-seeking.(専門家(医師、心理士など)に相談するよう促す) Consider Return to Work options.(職場に復帰する方法、選択肢について考える) Tell them the door is always open and arrange next contact.(いつでも戻ってきて良いことを伝え、次に連絡を取る約束をする)
参考文献のURL:
上から頭文字を読めばRESPECTです。休んでいる部下をリスペクトするという意味にもなりますので、うまい語呂合わせだと思います。こんなに良い行動を取れる上司が日本にどれほどいるかは疑問ですが、少なくともオーストラリアではこれが理想ということでしょう。
さて、この研究では、オーストラリアの消防士達の中で選択的にこの教育プログラムを実行し、プログラムを受けた職場と、受けていない職場で違いを調べました。最初は128人の上司がこの研究に選ばれましたが、参加したのは88人のようで、46人がプログラムを受け、42人がプログラムを受けない形になりました。最終的に、データを提供してくれた人たちは、プログラムを受けた上司では25人で、その部下たちは1233人でした。対して、比較の対照になったプログラムを受けなかった上司は19人で、その部下たちは733人でした。ちょっと協力してくれた人たちの割合が少ない気もしますが、まあこんなもんでしょうか。
では、結果発表です。まずはプログラムを受けたグループの結果から。当初は1.56%の人たちが休職していたのですが、プログラムを受けて半年たった後では、この数字が0.28%減っていたとのことです。
一方で、プログラムを受けなかった人たちは、当初は0.95%の人たちが休職していたそうですが、これが半年後に0.28%増えてしまったとのこと。かなり対照的な結果になりました。統計学的に見ても、p値は0.049(偶然である確率が4.9%。5%を切ると統計学的に意味のある数字とみなされます)ということですから、単に偶然とかたまたまではなさそうです。
この結果から考えられることは、やはり上司がどのように部下に接するかが重要ということでしょう。特に、部下が休んでしまった時に、暖かく接することができるかそうでないかで、部下が復帰できるかどうかが決まってきてしまいます。当然、パワハラ上司なんてもってのほかです。
ただ、休職している部下との接し方が分からない上司の人たちも多いと思うので、やはり教育が必要です。こうした事実をたくさんの人に伝えることで、良い職場ができるわけです。ただ、これはあくまでオーストラリアの話。日本でも同じような研究をして、日本の職場ではどういうプログラムが有効なのかも調べないといけないですね。
Comments